本格的なフロアコーティング

そんな過疎地の川はまだきれいで自然が残っているはずだと釣り竿や網を片手にのぞきこむと、水際はみごとにコンクリが張ってある。 それはずっと遠くまで延びているのだ。
自然の川はここにもなかった。 こういう過疎地の川の方が人目につかず、文句をいう人間もいないから、かえって護岸や改修工事はやりやすいのだ。
鹿児島に来てからはずっと市内のマンション暮らしだった。 車で30分も走れば川や山に行けるし、海は目の前にある。
最近、庭や畑のある家がほしくなり、この9月、市内から車で一時間のところに農家を借り、居を移した。 家の造りが古いのでマンションのように便利ではないが、足が地に着いている感覚が気に入っている。
市内では桜島の降灰がひどくていつも窓を閉めていたが、ここでは一日中窓を聞けておけるのもいい。 周囲は一面の田んぼだ。
もう一ついいのは隣家が離れていて、なんの気兼ねもなく、犬を飼えることだ。 犬は鎖につながれることもなく、1日中、家のまわりを走りまわっている。
この冬は畑作りをしょうと思い、近くの休耕田を借り、畑に堆肥をすきこんだ。 さて、これから何を植えるか、考えているところだ。
カナダ・ユーコン準州のホワイトホースから250キロ山に入ったところにある湖が出発点だ。 そこを出ると川は無人の荒野の中を流れ、2週間後に小さな町に着く。

約3百キロの川旅だ。 グリズリー、クロクマが多いので、現地の友人に同行してもらい、銃を2丁持っていった。
それと「クマよけのスプレー缶」を各1個ずつ。 ピッグサーモン川は10年前までは冒険好きのハンターが年に数人下るだけだったが、最近、人気がでてここに入る人が多くなった。
出発点のクワイアトレイクから小さな水路でつながるこつの湖を経て川は始まる。 この源流部で2泊して体をユーコンの自然に慣らした。
魚は初めて見る魚で、鳥獣を殺してその日の蛋白源にする生活も彼らには初めての体験だ。 アウトドアライフとは生き物を殺す生活である。
川に入った。 幅十メートルの川は時速7キロ前後で絶えず蛇行して流れた。

両岸から倒木が張り出し、川底からはあちこちで沈木が枝をのばしている。 その聞をうまく漕ぎぬけねばならない。
岸にはトウヒとシラカバがびっしりと生えている。 流木が川いっぱいに重なりあっているところに出た。
カナディアンカヌーを担いで岸を歩き、迂回した。 一時間後、またおなじようなところがあり、ふたたび、フネを担いだ。
どこに上陸してもクマの足跡があり、フンがあった。 川の上にいる時も時折、ふっとケモノのにおいがした。
ぼくは「グマの国」にいるのだった。 それも侵入者として。
ーが立ってこちらを見ていた。 ぼくの犬が換えたのでそいつは怒り、岸を走って追ってきた。
500キロくらいある大きなやつで、金色の毛が美しかった。 この旅の間にクロクマを3頭、ムースを2頭見た。
それにしてもこの川にゴミがないことに感心した。 ここには一夏に千人以上の人が入り、2週間以上キャンプをして通過する。
どこにもゴミはなかった。 みんなゴミを持ち帰っているのだ。
「日本に帰ってまた汚いゴミだらけの川を見るのはイヤだな」とだれかがいった。 われわれは遥かなるユーコン本流に出た。

川幅はいきなり300メートルに広がる。 向けになり、空をながめてゆっくりと漂い下った。
田舎で自分の住居を作る条件としてぼくが考えていたのは、最近、地方の自治体の多くは人口の減少に悩み、様々のエサを与え、転入して定住してくれる人を募集している。 うちの村に来てくれればウシを1頭あげるとか、村有地1坪を百円で売り、5年以上そこに住んだらその土地を無料で提供する、といったものだ。
一度、そういう村に行ってみたことがある。 役場の人が連れていったのは、村の一画を百坪ずつ区切った団地で、そこに真新しいきれいな家が建っていた。
そんなところに住むのなら都会と同じだ。 何も田舎に来ることはないのだ。
町の繁華街からなるべく離れた山の方に土地がほしいのだというと、係の人は驚いて、寂しくはないですか、といった。 この国の人はいつも他人と肩を接してつるんでいないと寂しくてたまらないようだ。
アラスカやカナダに行ってみろ。 周囲50キロに誰もいない生活を好む人が大勢いる。

過疎だといって騒いでいる村の人に人口をきくと一万数千人だという。 アラスカでは人口10,000人といえば大都市だ。
1,000人でビッグタウンだぞ。 日本人は寂しがりすぎる。
周囲に人家のない広い土地といえば山だ。 山というのは意外に安い。
宮崎県の、あるきれいな川の岸から山に向けて4ヘクタール(12000坪)が500万円で売りに出ていた。 熊本県との県境の山中に1ヘクタールの土地を見つけた。
旧開拓地で、かつては思って入手した。 山の中腹、標高300メートルの地点である。
もとは畑だった平らな土地で、水は上の山(国有林〉からの湧き水をトイで引いて使う。 周囲は気持ちのいい雑木林で、隣近所に人家もなく、ここなら自由に暮らせる。
値段は120万円だった。 山の値段というのはそんなものだ。
平地だから造成する必要もなく、すぐに家を建てられると思って喜んでいたら、大変なことを発見した。 買った土地から車で5分ほど下がった山中に作業をしている人たちがいた。
よく注意して見ると、そこに大きな看板が立っていた。 「水源酒養林造成事業」と書いてある。

雑木を伐って、その人たちはヒノキを植えていた。 保水力の多い雑木を伐って保水力のない針葉樹を植え、水源酒養林を作るというのは矛盾している。
林野庁はまた例によって白を黒といい、大嘘をついて事業を進めているのだった。 この調子だと、ぼくの土地の周辺の国有林もいずれやられるだろう。
ぼくは周辺の雑木林が気に入って土地を買ったのだった。 ぼくの水源のある所に伐採の手が延びるのは数年後だろう。
毎日、政府による嘘の造成事業を見て自分の地所に出入りするのも業腹だ。 山の土地に引っ越す熱が冷めてしまった。
こうして、ぼくの土地探しはまた続くのである。 日本で土地を買うには建設省と林野庁の今後の計画をきいてからにした方がいい。
さもないと、そばを流れる川がダムで堰止められたり、家のまわりの山が裸になったりするのだから。 ある時、別荘に行くと川の様子が変わっていた。
滝つぼにコンクリートのブロックがいくつも投げ込まれ、泳げなくなっていた。 村の土木課が土建業者を喜ばせるために淵を浅くする工事をしたのである。

こんなばかな話はない。 川というのは深いところと浅いところがあって、初めて川なのだ。
そんなに深いところが嫌いなら海はどうするつもりだ。 美しい川のそばで暮らしたい、というのがぼくの夢だ。
そのために鹿児島まで来た。 日本国内でどんな理想的な場所を見つけても、それはいつか園や地方の行政によって壊される運命にある。
それもくだらない理由で。 それなら、いっそのこと自分で川をつくればいいのだ。
山を買い、雑木の多い山にする。 農薬散布などはせず、杉などの針葉樹があれば、それを伐ってドングリの木を植える。
その山から出るきれいな湧き水を集めて川にするのだ。 子供のころ、ぼくの家は村を見下ろす小高い丘の上にあった。
丘には広葉樹の森があり、丘の中腹の杉の大木の根の所から泉が湧きだしていた。 その水を引いて、その下に20枚ほどのだんだんになった水田をつくっていた。

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